第一章 契約

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第一章 契約

ヴァイス王国、南方に位置するナティル教会地下。    何本もの矢を背負い、赤くくすんだ白銀の髪を揺らし、純白のマントを赤く染めた男は滴る己の血液に足元を滑らせながら頭上で灯る小さな火を頼りに奥へと進む。  すると、大きな壁が目の前に立ちはだかる。  他に道はない。  壁石に手を這わし、指先で何かを探るようにでこぼことした部分を一つ一つ丁寧に撫でていく。    石特有のざらつきが伝わってくる中、つるりとした手触りの良い部分を見つける。それを軽く指先で押し込めば、微かに中で何かが外れる音がする。  そして立ちはだかっていた壁は大きな重苦しい唸り声を上げて、上下左右へと消えて行く。  風が吹き、空間は暗闇へと変わる。  次第に目が慣れて前にゆっくり進めば、ぽつりと赤い球体が浮かんでいる。近づけば近づくほどそれは大きく中に何かがいることが分かった。 「これは……」  男は目を見開いた。  それもそうだ。  球体の中には、光りんなどないはずなのに輝いて見える白銀の短い髪。まるで死人のような青白い肌。そして何よりも目を疑ったのは自分と同じ顔をした裸体の男が胎児のように身を丸くし、眠っているのだから。 「本当にここにあったのか」  恐る恐る球体の柔らかい外壁に触れると、中にいる男がゆっくりと瞼を瞬かせながら人間とは言えぬ真紅の瞳を現せる。 「お前を出してやる」
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