【17】 月輪

1/3
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ

【17】 月輪

 穏やかな沈黙があった。  阿梵詭は静止し、存在というものを超えた処に立っていた。  僕の名を呼んだ瞬間から、殺意というものは、彼の体から消え去っていた。  一瞬、目の前の彼が、幼かった頃の―――無邪気に笑い、いつも僕の側に居た頃の―――彼と、重なった。  爆音が(とどろ)き、今まで阿梵詭の背に広がっていた翼が、紅く燃え上がり堕ちた。  万物の根源、不正不滅の存在、宇宙の最高原理……荘厳なる、再生。  強大な力を秘めた闇の翼の真実の姿が今、彼の元へ蘇る。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!