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――――――炎のように揺らぐ闇の槍が、その手に握られていた。
既に、選択の余地は残されていなかった。目を閉じたその瞬間に僕の体は光に包まれ、強い銀色の光は巨大な翼となって現れた。
手を翳し現れた弩。つがえられた矢は、阿梵詭を見た。
光と闇の風が同時に舞い上がった。
無数の光の矢と闇の槍が飛び交い、互いの体を傷つけた。耳のすぐ側でさざめいては消えていく光の最期の声。
自分が慈しんできた者達の消滅に胸を裂かれながら、それでも留まることを許されず、風を操り宙を駆け続ける。同じ苦しみを、彼もまた受けているのだろう。
傷つけ合いながら徐々に近づいていく温度。矢では反撃が間に合わぬ程までに近づいた時、躰の奥深くが燃え上がり、光の剱が現れた。それを手に取った時、既に相手は目の前に迫っていた。
月輪のような響きと共に、二つの剱が重なった。
「…昔はずっと、これくらい側に居たのにね」
無意識のうちに、笑みが零れていた。
「拒絶したのはお前だ」
「拒絶なんかしていないよ。いつからか君が僕の処へ来なくなったんだ。待っていたのに、薄情だね」
「巫山戯るな」
阿梵詭は髪をはためかせ、後方へ下がった。剱が離れ、そして振り上げられた。――――――その時、一筋の未来が視えた。
何かが、一粒の雫のように、胸の底へと落ちた。
(……そういうことか)
阿梵詭の胸を狙い、剱を構えて待ち受けた。黒い業風が額を切り、阿梵詭が闇を蹴った。
目を閉じた。
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