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本当は本当にどうすればいいのかわからない。
わからないけど、そうじゃなきゃここでお世話になれないなら、私は受け入れるしかない。
聖也くんは私と結婚して私をどうにかしたいというものもないみたいだし、それくらい受け入れられる。
私は聖也くんのご両親が帰宅すると、すぐに紙の中で結婚した。
お母さんが亡くなったばかりだから、式はどうかというお話があって、紙だけ。
私は桐生苺になった。
苗字がかわった。
だからって、なにかがあるわけでもない。
「マイちゃん、聖也のこと、よろしくね。お母さんのことは本当に残念だと思うわ。告別式にも出られなくてごめんなさいね」
聖也くんのお母さん、お姑さんは上品な感じの人で、本当に申し訳なさそうに言ってくれる。
謝ってはくれても、私はお母さんじゃない。
あと、この家の人がどんな人であっても、私はここしか居場所がない。
本当は…ひどく聖也くんのご両親を信じられてはいない。
「大丈夫です。聖也くん、優しくしてくれるので仲良くなれると思います」
「マイちゃんはしっかりしているわね。そのまま聖也の気をひいてね」
それはもしかしなくても、聖也くんがゲイというのをやめさせたいからの言葉なんだろう。
私の隣に座っていた聖也くんは、膝の上にあった私の手に手を重ねてきた。
かなりどきっとした。
「心配しないで。僕もマイちゃんとは仲良くなれると思うから。もう部屋に戻ってもいい?」
聖也くんは私と二人になりたいみたいにお母さんに言う。
「いいわよ。あ、マイちゃん、お母さんのお墓に参らせてね。主人と一緒にいくわ」
「私もいったほうがいいですか?」
「いいえ」
簡単にあっさりといらないと言われて、少しどうしようかと思っていたら、聖也くんが私の手をひいて立ち上がって、私も立ち上がる。
聖也くんを見てから、お義母さんのほうを見る。
「あの…、私、桐生さんとお母さんの関係、よく知らなくて…」
桐生さんに会ったら聞きたかった。
こんな豪華なお家の人とはまったく思っていなかったから、よけいに不思議で聞きたかった。
「マイちゃんももう桐生さんよ。……若い頃、主人を巡って取り合ったライバルっていうところかしら?」
お義母さんはそんな答えをくれて、私はそれ以上は聞けなかった。
また不信感が増えるだけ。
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