恋愛と夫婦

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恋愛と夫婦

半年も経てば、かなり親密な付き合いになった。 六本木の「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」でランチをしているとき、麻紀が、「ねえ、それ少し頂戴」と信司が食べて居る魚料理を指して言った。 「いいよ」信司はそう言って、レストランが用意してくれた取り皿は使わず、食べかけの皿ごと渡してくれた。そのころは、行儀が悪いとは思ったけれど、取り皿に分けるのもせず、直接相手の皿から料理を取ることも多かった。 相手が信司だと、食べかけの食事でもそのまま美味しく食べられた。おそらく、一皿の料理を、一組のフォークとナイフ、一膳の箸で共有しても仲良く食べられる。 しかし、すでに夫が相手だと、箸を付けたものを食べられなくなくなっていた。 「変わるものだなあ」麻紀は内心、驚いていた。 麻紀はその頃、子供が十分に大きくなったら、離婚できないか、考えていた。 裕福な暮らしはありがたいが、別にそれを望んでいる訳では無い。ただ、子供が成長するまでは、この環境は快適だ。 それを除けば、徐々に麻紀を拘束する夫が鬱陶しくなってきていた。夫と暮らしていると、本当の自分では無くなる気がした。 夫との生活はまるで芝居をしているようだった。     
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