198人が本棚に入れています
本棚に追加
夫
麻紀は5時に起きて、身支度を調えて(夫の指示だ)から朝食の用意をする。
夫と子供に食べさせるものに手抜きはしない。
6時に夫と子供を起こし、一緒に食事を取ると、まずは夫が出掛ける世話をする。靴下、シャツ、ネクタイを渡し、スーツにブラシをかけ、ハンカチ、スマホ、万年筆、財布、家の鍵を忘れないように並べ、先に玄関に行き、昨晩磨いておいた靴を、再度、軽く磨いて、揃えて置いておく。
玄関を出ると、門の向こうで会社からの車が待っているので、運転手に挨拶をして戻って、玄関に降りてきた夫にシューホーンを渡す。
夫は麻紀よりも一回り年上だが、その歳で会社から運転手付きの車を与えられるのだから、かなり早い出世なのだろう。麻紀は大学を出て1年だけOLだったが、その時の記憶では運転手付きの車を与えられるのは、麻紀達からは話をしたことも無い雲の上の様な存在の人達で、皆、白髪の初老だった気がする。
夫に熱心に口説かれ結婚、直ぐに子供が出来て、仕事を辞め、しばらくは子育てに忙しかったが、その子供も小学校の高学年になり、手がかからなくなった。
夫は、おそらく仕事も豪腕で自分の意見を押し通しているのだろうと思うのだが、家庭でのあり方も、すべて彼の流儀を押し通した。
熱心に麻紀を口説いている夫を知っている友達は、さぞかし大事にされているのでは、と思っているようだ。
いや、実際、夫は夫で彼なりに麻紀をそして家族を大事にしているつもりだろう。世間的には裕福で優雅な生活をはさせてもらっている様に見えると思う。。
数年前には渋谷まで15分程度の人気の住宅地にそれなりの家を建てて、暮らしている。夫のBenz Sクラスとは別に、麻紀専用の車としてAudi A6を与えられているし、美容院やエステの回数で小言を言われたことは無い。
夫からはVISAゴールドの家族カードを渡されていて、生活に必要なものは、すべてそれで買っている。
最初のコメントを投稿しよう!