ー Undercover ー

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「受理はできても、データの抹消には時間が必要なんですよ。郵便が届いたのも午後だったので、人事部がデータ抹消作業は翌日に行う事にしたそうだが、そのタイミングを見計らったように10日の深夜にハッキングされてしまってねぇ。幸い事無きを得たが、まだ企業スパイは潜伏してますからな。油断はできません」  少し落ち着いたのだろう。部長の表情がいくらか和らぐ。そのスキに、奏真は質問を差し込んだ。 「9日の退職直後にIDが使われたんなら、ゴースト・ユーザーの仕業というより、工藤さんご本人だった可能性があるのでは?」 「それはありません」  やけにきっぱりと部長が即答した。 「犯人に見当がつかないから警察に相談してるんです。刑事さん、いいですか? 工藤は開発チームの責任者で主任技術者だったんですよ。仮に『プログラム』を盗むつもりなら、とっくに持ち出そうとしてるでしょう。保管ファイルのロックを解除するパスコードだって当然奴は知ってましたので、ハッキングなんて面倒な事をする必要もありません。だから、ハッキングは工藤ではない社内にいる誰かです」  確かに、部長の意見は理に適っている。奏真は更に問いを重ねた。
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