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「わかりました。とりあえず我々で再度詳しく調査しますので、工藤さんの連絡先を教えて頂けますか?」
「ムダだと思いますよ」
言葉を挟む余地もない程、素早い部長の返答だった。
「人事部が工藤宅を訪ねましたが不在だったそうです。電話にも出ないしメールの返事もないから退職金など諸々の作業が終わらないと、人事部長がボヤいていましたからね」
「工藤さん失踪したんですか!?」
警察としては見過ごせない事態だが、部長の態度に心配している様子は欠片もない。小さく舌打ちしてから、部長が無関心な物言いで吐き捨てた。
「そんな大そうなモンじゃありませんよ。開発部長の話では、工藤は前から何度も無断欠勤を繰り返してるそうです。一切連絡がつかず不審死してるんじゃないかと、開発課長が自宅を訪ねた事もあったとか。突然ふっと消えては3日後に平然と出社したり、一日中トイレに引きこもってみたり…とにかく」
部長は忌々しげにグラスをテーブルに叩き付けると、不機嫌に鼻を鳴らした。
「もう我が社とは関係のない人物ですからね、行方不明だろうが不審死しようが関心ありませんな。そんな事より刑事さん、余計な詮索などしてないで、さっさと社内スパイを見つけて逮捕して下さい」
苛立ちを隠せない部長の様子から、奏真はこれ以上話しても有力な情報は得られないだろうと思った。何より、この重たい空気が漂う空間から一刻も早く脱出したい。工藤に関しては自力で情報を集める事にして、ネクタイを整えてからそっと腰を上げる。
「我々警察も、早期解決できるよう全力で頑張ります」
「くどいようですが、この『プログラム』は我が社の宝です。警察には是非この宝を守って頂くと共に、社内に潜むスパイを一日も早く逮捕して頂きたい。頼みましたよ」
もう立つ事もせず、こめかみを手で押さえながら顔をしかめている部長に、奏真は丁寧に一礼した。胃薬を用意し終えた美人秘書が、機械じみた動作でドアへと案内する。
「では"三木"さん、こちらへどうぞ。中途採用者の控室でお待ちください。時間になりましたら各課の課長が迎えに来ますので」
促されるまま部長の部屋を後にすると、奏真は秘書と一緒にエレベーターへ向かった。到着を待つ間、大きな窓から隣のビルを眺めつつ、何気なく下の方を覗き込んだ。
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