ー Red Notice ー

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 レンは奏真の手を持ち上げた。骨張った手の甲に顔を寄せると、それ自体が愛を誓う行為であるかのように口づける。手の甲から、腕に、肩から首へ、ゆっくりと這い上がってくる唇の感触に、奏真は身を任せた。この瞬間のまま、時間が止まればいいのにと、心の中で呟きながら。  濃厚な夜空を背にそびえる白い巨塔。本社が頭脳ならば、ここは心臓と言ったところだろうか。JIT社が世に送り出す製品は全て、この白い棟の中で生まれている。数多くの企業秘密が、この巨大なビルの中に収められているのだ。  その為、出入り口のチェックは厳重だった。自動にはドアには機械警備システムと防犯カメラが設置され、もちろん警備員も待機している。本来は土曜の夜ともなれば、警備員を残して無人になるのだが、今夜はシステムメンテナンス日の為、所々に明かり点いていた。 「レン…おいっ、やめろって」  JIT本社の裏口、花壇や植木で彩られた広場は、ちょうど研究棟の出入り口と対面する造りになっている。その植え込みに隠れる事2時間少々。佐野は既に本社に来ているが、まだ動きはない。それをいい事に、さっきから何かとちょっかいをかけてくる相棒を、奏真は小さく睨んだ。 「少しは緊張感持てよ。もうすぐ佐野がっ…わっ、よせっ」 「よせって何を?」  クスクス笑いながら、空惚けているFBI捜査官を見やって、奏真は溜め息をついた。人命が掛かった秘密作戦を決行中とあって、ついたしなめる口調も荒くなってしまう。
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