ー Red Notice ー

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「イチャつくなっ、任務中なんだぞ。真面目にやれよ」 「大丈夫。ほら、準備ならもう出来てるさ。後は佐野が現れたら作戦開始だ」  起動中のノートパソコンをひょいと掲げた相棒は、ピクニックでも行くようなノリだった。緊張感のかけらもないその様子に、奏真は呆れる一方、喪失感にも似た物寂しさが急速に込み上げてくるのを感じていた。  これが終わったら、事件は全て解決。無事に工藤を救出できたという事はつまり、レンの帰国を意味するのだ。こうして一緒に過ごせるのも、あとほんの少しの時間。  寂しさに押し潰されそうになる自分に気合を入れ直すと、奏真は深く呼吸した。今は任務に集中すべき時。工藤を救出するのが最優先だ。恋愛ボケしている場合じゃない。首を振って、奏真が邪念を振り払ったその時だった。本社の裏口から、痩身の人影が出て来た。 「ソウ、佐野だ。作戦開始するよ、いい?」  声を潜めたレンが、広場を真っ直ぐに歩く人影を顎でしゃくった。奏真は対象を注視した。間違いない。佐野修司だ。ベンチが並ぶ幅の広いアスファルトの道。ソーラー発電の街灯が照らすおかげで視界は明るく、全身黒い洋服でも佐野の姿が闇夜に紛れる事はない。  出勤した警備員が横着して無断駐車したのだろう、黒の大型バイクが道の端に停めてある。その前を通過すると、佐野は研究棟の出入り口で立ち止まった。いよいよだ。奏真は枝の隙間から様子を見ながら、声だけ隣に飛ばした。
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