ー Red Notice ー

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 悔しいが、ここはFBI捜査官の言い分が正しい。それでも今すぐ警備員に駆け寄りたい衝動を懸命に抑えながら、奏真はパソコン画面を覗き込んだ。青白い光の中、4分割にされた映像の1つに佐野が映っている。程なくして、黒い壁に囲まれた小部屋の映像に、佐野が映り込んだ。 「ここがレンの言ってたPCがある部屋?」 「そうだよ。通称ブラック・ボックス。限られた社員しか入出できない特別室だ。あのPCにプログラムが入ってるんだよ。数千億の利益を生む金の卵を持った雌鶏ってわけさ」  デスクの前に座った佐野が、PCの電源を入れている。それを見つめるFBI捜査官の切れ長の瞳が、ようやく獲物を見つけた肉食獣のように細くなった。 「レンっ、見ろよ。佐野がパソコンを起動させたぞっ」 「Come down, baby…I get it」 ベイビーだけ何とか聞き取れた。奏真が映像を注視している間にも、FBI捜査官は着々と作業を進めていた。佐野とパソコン画面を拡大すると、満足そうに微笑む。 「よし、佐野がセキュリティロックを解除した。ソウ、ほら見て。佐野がUSBにコピーを始めたよ」  画面の1つ、右端の映像の中では、佐野が何かのデータをコピーしている様子がはっきりと映し出されている。それを歯痒い気持ちで見つめながら、奏真は奥歯を噛み締めた。今目の前で行われているのは犯罪だ。これを食い止める為に潜入捜査をしたというのに。 だがこれも工藤を助ける為だと、奏真が自分を諭したちょうどその時、カメラの奥で異変が起こった。USBを抜き取った佐野が、突然パソコンを分解し始めたのだ。 「レンっ、佐野がPCぶっ壊してるぞっ」 「さすが佐野主任、抜け目ないねぇ」  苦笑しながら、FBI捜査官が感心したように息をついた。   「データを完全消去するつもりか…僕の思った通りだ。HDDを破壊して、コピーしたUSBを原版にしようって作戦だな」 「HDDを破壊!? どうしてそんな事っ」 「プログラムの価値を高める為だよ。『世界でたった一つの物』に勝る宝はない。佐野は自分の商品を唯一無二にしたいのさ。その方が高く売れるからね。データを手に入れた今、JIT社にプログラムを残しておく程、佐野は情け深い人間じゃないよ。これ社長が見たら失神するかもね」
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