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『――三堂か?』
ずっしりと鼓膜に響く低い声。口調こそ穏やかだが、声には微かに安堵の気配が滲んでいる。
『お前、電源まで切って今まで何を…』
「すいません課長、緊急事態なんです! 今は俺の話を聞いて下さい!」
無礼を承知で上司の言葉を遮ると、奏真は早口で事情を告げた。
「たった今、ゴースト・ユーザーと思われる被疑者、佐野修司という男を緊急逮捕しました」
『なにっ、ゴースト・ユーザーを逮捕しただと!?』
普段、絶対に乱れない田辺の声が上ずった。その奥からは、同僚達の拍手と歓声が聞こえてくる。けれど勝負はこれからだ。奏真は沈黙している上司に要請した。
「課長、実は被疑者の佐野修司と所在不明の工藤大成は共犯で、工藤は今、成田空港にいる事が判明しました。大至急、身柄の確保をお願いします」
『成田だな?よし、今手配しよう』
「それと、佐野は『プログラム』を売って大金を手に入れようと企んでいたんですが、取り引き相手に工藤を拉致され、脅迫されている可能性があります。もし佐野が取り引きに来なければ、工藤が殺害されるかも…」
『承知した』
奏真が説明している途中で既に、聡い上司は全て理解したようだった。答えたのと同時に、キーボードを弾く音が響く。
『今、成田の空港警察隊に極秘の緊急配備を要請した。付近を巡回中のパトカーも全車両成田に急行させてる。三堂、お前も被疑者を連れて成田へ向かえ。護送用のパトカーを手配したから、空港に着き次第、救出チームと合流しろ』
「了解しました。課長、佐野の取り引き相手はキラー・ビーというアメリカの闇組織で、武装している可能性があります。用心して下さい。実はアメリカ人組織の情報や佐野の逮捕には、知り合ったFBI捜査官の協力をもらいました。詳しくは後で説明します」
『お前がFBIに照会した件なら、久保から報告を受けた。俺も今から成田に向かうから、事情はその時に聞こう』
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