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「先輩ッ 、ちょっとみんなもっ、撃たないで!」
物々しい空気と銃が放つ威圧感に引け腰になりつつも、奏真はFBI捜査官の前で青ざめている佐野を庇うように立ちはだかった。特殊部隊と指揮官に向けて両手を上げると、人質をとる通り魔を説得するような口調で訴えかけた。
「先輩っ、いえ管理官! 落ち着いて下さい! 被疑者は1名で既に拘束していますっ。武器も所持していませんし逃亡の恐れもありませんっ。銃を下ろしてください、みんな大げさですよ」
「ソウマッ、こっちに来い!」
奏真の声を遮った新庄の声は、かつてない程の緊張感が張り詰めていた。こちらを睨む目にも、強い警戒感が滲んでいる。こんな新庄を見たのは始めてだ。しかし奏真がギョッとしたのは、何も普段とは違う先輩の様子に驚いたからではなかった。取り殺さんばかりの殺気を漲らせながら、新庄が突如銃を向けてきたのだ。
「新庄管理官!?どっ、どうしたんですか!?」
「早くそいつから離れろ!」
「いやっ、ですから佐野はもう拘束しているので危険はない…」
「違うッ、被疑者の事じゃないッ」
新庄の眼差しは銃の標準と同じく、ある一点に注がれていた。奏真はその矛先を辿るように、視線を背後に滑らせた。
「ソウマっ、そこで被疑者を取り押さえているのは"八代連"という社員じゃないんだッ」
「あッ、やっ、それはあのっ…!」
迂闊だった。内心、奏真は舌打った。どうやらレンの素性がバレたようだ。おそらく田辺からFBIに照会をかけた件を聞いて、独自に探りを入れたんだろう。見た目のチャラさ騙されるが、新庄は何事にも抜け目なく用心深い。
それを失念していた自分の詰めの甘さを呪いつつ、奏真は潔く腹を括った。何とかレンにお咎めがいかないよう色々と言い訳を考えていたが、バレてしまった以上どうしようもない。
発砲を思い留まるよう両手を警官隊に向けたまま、奏真はありったけの誠意を込めて銃を構える上司に直訴した。
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