ー Red Notice ー

54/70
前へ
/215ページ
次へ
「管理官、落ち着いて俺の話を聞いて下さい。実はそうなんです。"八代連"というのは彼の偽名で、事情があり止むを得なく身分を偽称していたんです。本当の名前はメイソン…」 「"メイソン・ミラー"、FBIニューヨーク支部の特別捜査官だろ?」 「えっ、どうしてそれを…」  その時だった。奏真の呟きを、新庄の怒気を孕んだ声が鋭く遮った。 「そいつは"メイソン・ミラー"でもないッ」 「はっ?」  奏真が聞き返した、次の瞬間。 「――さすが、日本の警察は優秀だなぁ」  苦笑交じりの呟きが、背後からふぅっと沸いた。奏真は振り返った。佐野が青い顔で見上げている先と、警官隊の銃口が捕らえている場所は完全に一致している。  街灯の淡い明かりの中でも色褪せる事のない妖艶な微笑み。チョコレートブラウンの前髪が夜風に弄ばれるまま、そこに立つ長身の影は、無数の殺意を向けられて尚、悠然と嗤っている。 「…レン…?」  奏真の口から戸惑いの声が漏れた。返事はなかった。そこに佇む美しい男から返ってきたのは、どこか悲しげな微笑みだけ。 「な、何言ってんの? レンは"メイソン・ミラー"だろ? FBIの捜査官で…」 「目を覚ませソウマッ!!」  朦朧とした意識を、新庄の鋭い怒声が穿った。銃を握り直した新庄が、一歩前に出る。同時に横一列に並んだ警官隊も同じ分だけ距離を詰めた。 「お前もJIT社も警察もッ、皆そいつに騙されてたんだッ。FBIニューヨーク支部の特別捜査官、メイソン・ミラーは確かに日本にいる。家族と一緒に、京都のホテルになッ」 「京都!?」 「そうだ、さっき出張から戻った時に、久保からお前がFBIに連絡した事を聞いた。一体何を調べたのか確かめようとお前に電話をかけたが、電源が切れて繋がらない。だから外務省経由でFBI本部に直接問い合わせたんだよ!お前が身元確認をしたのはメイソン・ミラーという捜査官で、現在は休暇で日本旅行中。大使館に要請して所在確認したら、本物のメイソン・ミラーが京都に滞在中だとわかった…そしてもう1つ、判明した事実があるッ…!」
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!

514人が本棚に入れています
本棚に追加