ー Undercover ー

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「三木、さっそくだけど仕事始めるから座ってよ」 「はい、失礼します」  皆がそれぞれ持ち場に戻っていく中、奏真が案内されたのは、当分仕事を教えてくれるという主任・吉岡の斜め前に置かれたデスクだった。机上には書類が数枚と筆記用具。それと最新型のノートパソコンが一台。対面では、少し猫背の若い男性社員、ぼぼぼ僕は…がフィギアの手入れをしている。課長といいこのアニメオタクといい、民間には個性的な人間が多いらしい。 「それじゃあまず、三木が担当するエリアと顧客の説明するからさ。わからない事があったら、何でも遠慮なく言ってくれよ」 「はい、よろしくお願いします」  一方、手際よく薄いファイルの束を分別しているこの吉岡は、いかにも仕事ができそうな好青年だ。年齢は少し上のようで、左手の薬指にはプラチナの指輪が光っている。すっきりと爽やかな笑顔は客ウケする事間違いないだろう。4種類のファイルの束を机に並べると、吉岡はテンポよく説明を始めた。 「まず、この白ファイルが契約済みの顧客リスト、青ファイルは商談中、赤ファイルが他社契約しているお客様リストで、黒ファイルが新規獲得の目標になっている対象と地域。三木には転勤した2人の担当だったお客様を引き継いでもらうから、顧客情報見ておいて」 「この付箋が貼ってある箇所ですか?」 「そう、上から次のページの終わりまで、全部な」 「次のページ…すいません」  白いファイルをめくっていた手をふと止めて、奏真はためらいがちにたずねた。 「物凄い数の名前があるんですが、これ全部俺が担当するんですか?」 「担当って言っても、定期的なご挨拶と新製品の案内ぐらいだよ。大丈夫、すぐに慣れるって」
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