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ー French Coffee ー
まだ4月も始まったばかりだというのに、南国の春は真夏とそう大差なかった。
トロピカルストリートの愛称で知られる市道、サウスウェスト12号線。ココナッツの街路樹が立ち並ぶストリートを、灼熱の朝陽が金色に染めている。
広大な森林公園の向かいに軒を連ねるベーカリーやフルーツマーケットでは、早くも営業が始まっていた。焼きたてのパンの香りが漂う中を人々がゆったりと行き交い、店先に並ぶ色鮮やかな南国の果物がストリートを飾っている。
パーティーとショーとギャンブルに彩られた華やかな夜が眠り、煌く太陽が一日の始まりを告げる、街の朝の顔だ。
青い海と白い砂浜が広がる、アメリカ東海岸のリゾート都市、マイアミ。
海から離れたこの商業エリアにも、サウスビーチから流れる亜熱帯の陽気な風に乗って、微かに磯の匂いが運ばれてくる。通勤通学の時間帯に差し掛かり、白を基調としたパステルカラーの店が立ち並ぶストリートにも、車とバスと人が増え始めていた。
「7時18分か……もう少しだな」
ビル街のダウンタウンに隣接する大型公園。4tトラックの荷台を改装した移動式カフェのキッチンで、腕時計から顔を上げると、滝沢春は鼻歌交じりに開封したてのフレンチ・ローストコーヒー豆をミキサーに入れた。
"彼"の好みは、標準よりやや薄めのブラック。雑味がなくクリアな味わいに仕上がるよう、豆は中挽きにセットしてある。コーヒーミルのスイッチを入れた瞬間、畳4枚程の細長いキッチンに、ミキサーの回転音と香ばしい焙煎豆の香りが充満した。トラックの側面を横長に大きく切り取った窓から、コーヒーの香りが溢れてストリートまで広がってゆく。
このグリーンヒルパークは、マイアミ市内に数多く点在する大型公園の1つだ。野球場3個分の広大な森林公園の一角、トロピカルストリート沿いの南出入口から続く通路と、広場に面したサイクリングロードが交差する脇に、このトラックカフェが出店してから1年になるだろうか。黄緑色の日よけシェードと白いペンキで清楚に仕立てられたカフェの外観は、南国の街に程よく溶け込んでいる。
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