ー French Coffee ー

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 大西洋を臨む、フロリダ半島の西南。エキゾチックなラテンの雰囲気が漂う街並みは、アール・デコ風の建物とヤシやココナッツの緑豊かな木々が見事に調和している。都市の中を巡るスカイブルーの川と湖が織りなす美しい景観は、世界中の旅行者を魅了してやまない。 「よっしゃ、豆できあがり!」  挽き上がったコーヒー豆の仕上がりに満足して、ハルはニヤリと微笑んだ。本人の脳内イメージでは"男らしい不敵な微笑"を浮かべているつもりだが、実際の小顔に張り付いているのは、男らしい笑顔とは程遠い"愛らしいニヤケ顔"だ。  少し耳が出るぐらいのミディアムショートに整えた茶色いクセっ毛に、小さな輪郭の中で一際目立つ大きな瞳が印象的な顔。少女に見えなくもない中性的な面持ちは、残念ながらとても21歳の大学3年生には見えず、たぶん男らしいと形容される事はこの先ないだろう。  身長こそ日本男子の平均である170センチをどうにかキープしているけれど、しかしここはアメリカ。同級生はボディービルダーさながらの大柄な体に高身長の男ばかりだ。そんなアメリカ人男子の中に一度混ざってしまったら、童顔で線が細くて小柄なハルなど中学生にしか見えなかった。 「ん~…あっと5分♪」  鼻歌交じりに腕時計を確認して、ハルは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。狭いキッチンカウンターの上にペットボトルを置くと、人差し指で端から順番に確認してゆく。 「水OK、豆OK、MサイズのティーカップOK! よっし完了ぅ!」  コーヒーメーカーのドリップ部分を開けると、ハルは香りが飛んでしまわないうち、急いで挽き豆を入れて蓋をした。水加減は量るまでもない。基準より大サジ1杯分多い水量は感覚でわかる。コーヒーメーカーへ慎重に水を注ぐと、ハルは慣れた手つきでスイッチを入れた。
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