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 予定より遅い帰宅になったので明日の準備を始めた。冷凍庫からスープ用の野菜をとりだして鍋にいれる。IHのタイマーを30分にしたあと、冷蔵庫から水をとりだしゴクゴク飲んで喉の渇きを癒す。  シュンの部屋から灯りがもれていたので帰宅をしらせると、おざなりな「おかえり」が返ってきた。こういう時は何を言おうと何をしようと無駄。シュンの集中力はすさまじく、けっこうな時間、俺はひとりぼっちだ。  不審者の話は今は無理だと諦める。  パンはあるし、ゆで卵は昨日まとめて作った。朝になったら鍋にコンソメを入れればスープができる。  特別料理が上手いわけではないが、放っておくとシュンは食べることを忘れてしまうから、せっせと作り食べさせる毎日。  笹川さんに教えてもらったスープは大活躍だ。野菜くず、皮、キャベツのそと葉、大根の葉。生ごみになっていたものを全部フードプロセッサーにつっこんで細かく刻み、一回分に小分けして冷凍しておく。ゆっくり煮出せば、美味しいスープに仕上がる。  リビングのソファにどっかり座り今日あったことを思い返す。  今日の飲み会はシュンの代理参加だった。センセイ方の定期的な集いらしいが、ようは過去の栄光を引きずる、かつての人気作家達の傷をなめ合う会。  そこに注目の若手を呼びつけ、あーでもない、こーでもないと言い募るらしい。秋元さんは個人的にそれが大嫌いで、シュンを行かせたくないと連絡がきた。  今回の生贄に選ばれたのは「征寛 俊」  ドラマに映画化、海外に売れた映画化権、翻訳版。今やシュンは人気作家で、発行部数を叩きだせる貴重な存在になっている。  センセイ達の自尊心を傷つける材料はたっぷり。 「格好よく毒吐いてきていいですよ」  秋元さんがそう言うから、理不尽な物言いをされたら言い返してやると決め、乗り込んだ。
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