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 5人の作家センセイの本は一冊も読んだことがなかった。高校生の頃、アメリカに住まいを移したことを言い訳にする。  面倒なときはすべて「日本にいなかったもので」といえば会話はそれ以上続かない。好きな作家はすべて海外の名前をあげたが、センセイ方の趣味と合わなかったらしい。  かみ合わないまま、気詰まりになり会話が途切れる。万事そんな調子で事はすんだ。  やがて俺への興味も尽きて、放っておかれてホットしたものの、会がなかなかお開きにならない。いい加減ウンザリして中座しようかと、様子をうかがっている時に聞かれた。 「そういえば、征寛先生の特集か何かがあるらしいね」  特集?聞いていない。取材はすべて俺がチェックして、シュンと相談して決めている。顔だしはNG(未だに吉川への不安がぬぐえないからだ)対面式の取材もなし。もちろん対談もなし。TVもなし。「書いた作品を評価してもらいたいので」がその理由になっている。  『想い』の内容、俺との関係。シュンを知っている人間であれば「ユキヒロ シュン」のペンネームだけでも容易に推測できるはずだ。俺達の関係のせいで、せっかくの作品が色眼鏡で見られるのだけは避けたい。その申し出は出版社に受け入れられた。 「特集ですか?」 「あれ?マネージャーさんも知らないの?」  秋元さんは俺をマネージャーとして紹介したのか。 「ええ、必ず私が取材申し込みや仕事の依頼に目を通します。特集といったものは来ていませんね」 「そうですか。征寛先生の半生とベールに包まれたプライベートを明らかにするとか、そんなことを言っていたかな?じゃあ、あれはルポライターかもしれないね。 パーティーなんかで征寛先生を見たことがないかって聞かれたんだよ。 いやあ、人気者は大変ですな。謎のベールに包まれていると捲りたくなるのが人間ですよ、ハッハッハ」  その時電話が鳴った――相手はサイ。  出向いて聞かされたのは、センセイの話しを裏付けるものだった。不審者の身元調査をありがたく受け取った後ケリは俺がつける。  サイに借りを作ったら、絶対に一生逃げられない。それだけは避けたかった。
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