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蒼、お前は相変わらず男をたらしこんでいるようだな。
他人にはなくて俺にあるもの、それはたっぷりの時間だ。一人の人間の行動を把握するためにさく時間、十分すぎるほどだ。
蒼のいる店の出入り口が見える階段の隅に陣取って出入りを確認することにした。一見してヤクザとわかる男がほぼ毎日やってくる。すぐ帰ることもあれば、長居することもある。時には二人揃って帰る日もある。
あれは危なかった。後ろから声をかけられ驚いて振り向くと、ヤクザが階段を登ってきたのだ。
「お前、こんなところで何をしている?」
鋭い視線に睨みつけられて冷や汗がでた。
「よ…酔いさましです」
怖ろしさにすくみ、青ざめた顔色が役に立ったらしい。
「階段から落ちるなよ」
一睨みしてから俺を追い越し店に入っていったのを見届けてビルからでた。その日からビルの外で張り込むことにしている。
昨日は店を閉めた後、別のビルに入っていった。1時間もしないうちに出てきた蒼の隣には若い男。そのままタクシーに乗り込みどこかに消えた。
守備範囲が広いね、蒼。ヤクザの次は若い男。
次はタクシーで後をつけることにしよう。帰って女にタクシー代をせびるか。
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