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 目覚めると暖かい胸の中だった。ここ2週間ばかり、伸ばした手に触れるのは冷たいシーツだったから嬉しくなってすり寄る。 「おはようございます」 「おはよ」 「碧さん、今日も一緒です」 「やっぱり、メールよりずっといい」  ギュウと抱きしめられる。 「碧さんの「おはよ」ってかわいい。かわいくて、かわいくて、はぁぁです」  クスクスが漏れる。だってかわいいのは君のほうじゃないか。カウンターの向こうに立っている時は凛々しい。真剣に取り組む姿勢はある種の色気を生む。それなのに、こんなにかわいくもなれる。それを知っているのはわたしだけでいい。 「今日はどこかに出かける?」 「俺は行きたいところもないし、碧さんがよければゴロゴロがいいです」  わたしもそれがいい。 「そうだね、ゴロゴロしようか。2週間分はまだ取り戻せていないし、なにより、わたしはまだ君を抱いていない。そうでしょ?」 「は……い」 「ゴロゴロの前に、話しておきたいことがあるんだ」 「なんですか?」  わたしの口調に気が付いたのだろう、宏之は腕を緩めた。変に不安をあおって今日一日を無駄にしてしまうかもしれない。でもわたし達が一緒にいるためには、一度話しておかなければならないことだ。 「わたしに何かあったら、裕に連絡すること。それともうひとつ『rumblue fish』という店に電話して。 そこにはバーテンダーが一人しかいないから、わたしの名前を言えばすぐに察してくれる。」 「ランブルフィッシュ?」 「番号はあとで教えるよ」 「何かありそうな、そんなことになっているのですか?」 「いや、今具体的に何か起こっているわけではない。でもまだわからないんだ。 わたしが足を踏み入れた所、そこと一生縁は切れないし、逃げ切ることも不可能だ。今は手綱を緩められているにすぎないし、いつカードがきられるのか、わたしに決定権はない。 ずっとそうだったから、わたしは慣れっこだし、このことは諦めて受け入れるしかない。 ただ今日この話を君にするのはね、宏之のこともう知られているんだ」 「どこにですか?」 「さあ、それは言えないかな。君が知る事になっら、わたしと同じように足かせをハメられるということだから、知らないままのほうがいいよ」  
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