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休みの日に申し訳なかったが、秋元さんに来てもらった。平日だと時間がとれないし、今のシュンは書くことに埋もれていて相談できる状態ではない。外に出る心配がないのは救いだ。
「お休みなのに申し訳ないですね」
「いえいえ、届けたい資料もあったので丁度よかったです。お話が終わったら寿司でもどうですかとお誘いするつもりでしたが、うっかりしてました。今日はお休みで残念です」
「近所に?」
「そうなんですよ。寿司が美味しくて大将が気持ちのいい人です。弟子に入った人がこれまたきちんとした人で、やっぱりああいう人の下には相応の人が来るものだと。
ああ、すいません。すっかり脱線してしまって。
平山田先生のところに来たという男の事でしたね」
「そうなんです。パーティーのような場所ででシュンの姿を見たことがないかと聞かれたらしい。秘密のベールに包まれたプライベートを明らかにすると言ったようです」
「う~~ん」
秋山さんは腕を組みながら何かを考えている。
モリから折り返しの電話がないということは、接触がなかったのだろう。サイにはライターの可能性を言っておいた。防犯カメラの画像よりはマシな情報だ。
「お二人の関係が世間に露呈した場合、先生の仕事に影響があると思いますか?」
「そりゃあ、あるでしょう」
「でも『想い』の内容から、先生と木崎さんの関係が公になっても……と思う面もあります」
「それは最初からオープンにしていた場合、受け入れられるかもしれません。でもデビュー以来ずっとプライベートに言及されないように露出を極端に控えています。
そうなると「隠したがっている」と思われますよね。正々堂々と同性の恋人がいますと開き直っているわけではないので。
隠す=隠したい=やましい そういう図式に見られかねない。
透明な作品である『想い』が曇りだしますよ、絶対です」
「う~~ん」
秋元さんの言わんとすることはわかる。同性の恋人がいると知られて、極端に部数が減るとは考えにくい。言うべきか……このまま黙っているか。
このようなことが今後起こる可能性はある。そのたびに同じように悩むのは得策ではない気がした。決めた、打ち明けることにしよう。
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