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「秋元さん、今から話す事は他言しないでください。松木編集長にも、誰にも。家族にも友達にも。そしてシュンにも」  秋元さんはソファの上で居ずまいを正し、膝に手を置き見つめ返してきた。大丈夫、この人は信じていい。 「『想い』を書いていた約1年の間、秋元さんはシュンに逢いましたか?」 「そう言われると、毎回飯田のクリニックでしたね。あとはメールのやりとりです。書くことに集中したいからとおっしゃって。先生の集中力はあのとおりです。だから邪魔をしないようにしていました」  小さく息を吐き出して気持ちを鎮める。油断すると冷静さを失ってしまうからだ。吉川のことを思い出すのは苦痛でしかない。 「あの時期、シュンはヤクザに監禁まがいの生活を強いられていました」 「な、なんですって?じゃあ、飯田はそれを知っていて何も言わなかったと?ひどい!」 「先生は相手がヤクザとは知らなかったし、守秘義務もあります。ヤクザだとつきとめてケリをつけたのは俺です」 「木崎さん、あなた何をやって……」  目をつぶって、再び心を鎮める。フラッシュバックのように浮かんでは消える画像。何枚にも重なった写真、肌に散った鬱血、手首のすり傷、くそっ! 「シュンは縛られて……その男にレイプされた。何人もの男たちの前で」  秋元さんの目は大きく見開かれ、口を両手で覆い体が小刻みに震えだした。力が抜けた身体がソファに沈みこむ。 「シュンの顔が公表されるような事態になったら、対処に困る問題が持ち上がります。同性の恋人がいるどころの騒ぎはありません。それを穿り返されると大変なことになる。 そのヤクザの処分は俺の手ではできなかったから、その場所にいた男達の身元は調べられなかった。残念です」  秋元さんは何も言わなかった。頭を抱えたまま動かない。俺はコーヒーポットを取るために立ち上がった。
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