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「わたしのような人間、あなたを斉宮と呼ぶような男に、恋愛や普通の生活をしろというのが腑に落ちない。『普通』に引きずられれば、それだけ過去を切り離そうとする。 それは危険を生みませんか?秘密が漏れ出し、貴方から逃げ出すかもしれない」 「表面的にはね」  斉宮はカウンターから出て、隣に座った。 「恋をするということは、守るべき存在を得るということ。それは強さを生みます。そして弱点をつくることになる。 亡者のように「蒼」を追い求める人間が、あなたの「相手」をみつけたらどうすると思います?」  せりあがる苦いものを飲み込む。宏之に危害が? 「そういうことです、あなたは相手を守ろうとするでしょう。そしてどこを頼りますか? もちろん私か桜沢です。そうそう言い忘れていました。吉川の一件で桜沢に私の身分の一部を知られることになったので「prue」と権田の橋渡しは桜沢の役割になっています」 「裕が?若頭がいるじゃないですか」 「ええ、いますよ。バカなままでね。金も作れないくせに使うことは一人前という半人前が。 だから芳樹から取り上げて桜沢に渡したのです」 「それって……」 「まあ、どっちに転がるかわかりませんが、芳樹が執着しているのは「金」であって「組長」ではない」  わたしが佐藤に恋をした、ただそれだけのことのはずなのに。少しずつ広がりを見せていることに不安を感じる。  ヤクザの組織は沢山ある、それなのにどうして裕は権田を選んだ?あのビルは権田のシマに建っていた。あのビルに放りこまれた、わたし。  裕とわたし、そして斉宮。この輪はどこまで広がっていく?宏之も飲み込むというのか。
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