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「あほなことを言うなよ、栞坂。彼女はオレの名前を確認しているだけだろうが。調子に乗る乗らないの問題じゃないぞ。あとな、変な勘違いを誘発するような言動は慎んでくれ、マジで」
「いや、調子に乗るね。俺には解る。あとはそうだね、変な勘違いをするのは向こうの勝手であって、俺のせいじゃないから」
「はいはい、相変わらずの自信家ですこと。責任転嫁はわけ解らんけど。気分を悪くさせたらごめんね、貞照院さん」
「いいいいっ、いいえっ」
どこからともなく現れたといっても過言ではなく、驚きしかない。声をかけようとした手前に栞坂くんの威圧に気がついたのだろうか。ちょっとどもってしまったけれど、芒くんは気にしていないようだ。栞坂くんの右側にいる芒くんは呆れた顔をしているのだから。
「それで、貞照院さんはなんの用?」
「あ、えっと……、お、お札を買いに来ました」
「ああ……」
芒くんは私を一瞥したのちに、自身の口元へと手を添える。若干憐れみのような目を向けられたような気がするけれど、気のせいだろう。というか、私の名前を知ってくれていたんだ。講義が被っていたり、ゼミやサークルが同じというわけでもないのに。もしや、一部の人に知れ渡って――はないか。あり得ない。人並みの容姿はお呼びでないのは解っているし。まあ、たぶん、芒くんは人の顔と名前を覚えるのが得意なだけだろうけど。
「栞坂が祓っても意味がないみたいだな」
「文字どおりの【霊媒体質】のようだね。次々に寄ってきてる」
お財布をしまいつつもいくら私自身が現実逃避をしようとも、内緒話をするかのような囁く声は聞こえていますからね! なんなの、私の呼び方は【霊媒体質】で決まりなんですか!
「ちょっと場所を変えようか」
「うええっ、あ、はいっ」
芒くんのひとことに栞坂くんはきれいな顔を崩して渋面を作るが、おそらくは移動したくないという理由からだろう。なにせ彼は極度の面倒くさがりなのだから。現に「面倒くさい」と言っているし。それでも並んで歩くのだから、素直なんだろうな。
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