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胸元を握りしめながら話を聞くに、買ったお札は『強いもの』を引きつける効果があるらしく、引き寄せられた結果、記憶が飛んだようだ。
「そんな危ないものを売りつけないでくださいよ!」
「それはもちろん、本来なら売ることはないんだけどね、貞照院さんは特別だから。勝手だと怒られることを覚悟して、【霊媒体質】を利用させてもらったんだ。栞坂本人だと逃げてしまうし」
「栞坂くん本人がって……、どういうことでしょうか?」
怒るよりも前に、どういう意味なのかと疑問が湧いてしまった。緩く首を傾げれば、「見て」と右の掌で空間を指し示す。そちらに視線を向けたのち、芒くんが発する。地を這うような低い声で。
「栞坂、いけるな?」
「――もちろん。芒を傷つけようとした者は亡霊だろうと人間だろうとこの手で潰すよ」
私からは横顔しか解らないけれど、栞坂くんは笑っているようだった。それも極上の笑みに見える。というよりも、ここは公園なんだろうか。ブランコがあるし。とにかく、家ではないことは確かだ。
「なんで公園に……」
辺りを見渡してみても、ここは公園にほかならない。たしかにアパート近くに小さな公園はあるけれども、それにしたって謎である。いや、『憑かれる』寸前だったのなら、どんな行動をしていても不思議ではないのかもしれないけれども!
「誘い出したからね。――『亡霊』ごと」
「あ、そうですか」
薄々そうだとは思いましたけども。つまり、歩いて公園まで来たということか。
納得したあとに栞坂くんへと視線を戻すと、あることに気がついた。栞坂くんは対峙している。仄かに揺れ動く靄のような大きな塊と。それは死者の――霊の集合体のようなもの。動物霊もいるし、幽霊もいる。これを相手にするなんて、栞坂くんだけで大丈夫なんだろうか……。
「す、芒くんは手助けとかは――」
しないのでしょうかと発する前にはもう、隣にいる芒くんはぶつぶつなにかを呟いているようだった。『リン』『ビョウ』『トウ』などと聞こえてくる範囲から察するに、これはあれだ。漫画とかであるやつだ。
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