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呟いているのではなく、唱えている――。陰陽道などに伝わるとされる『九字の印』を。なぜ解るのかといえば、陰陽師が主役の某ライトノベルを読んだあとに好奇心で調べたからなんだよね。見せびらかしたわけではないので、厨二病ではない。決して。素人がほいほいやってはいけないとも書いてあったし。いやまあ、したことがないのでどうなるのかは解らないけどね。
「芒くんは陰陽師でしたか……」
「〈鬼使い〉の家系だからね、オレの家は」
「はいっ?」
〈鬼使い〉とはなんでしょうか。勢いよく芒くんの方へ顔を向けると、同時にこれまたお札とおぼしきものが勢いよく飛んでいく。この方向はおそらく、栞坂くんのもとだろう。
「〈解〉!」
その声ののち、なにかが爆ぜるような音が辺りに響いた。そうしてパチパチと電気を帯びるような音が続く。
「〈鬼使い〉はその名のとおり、〈鬼〉と契約を結ぶ者のことだ」
「じゃあ、栞坂くんは――」
鬼。そう小さく漏らした言葉は正答でしかない。封印を解除した反動か、微かに煙る視線の先、栞坂くんの額からは角が生えている。長く太い角がふたつ。闇を象徴するような色の角が。指先から伸びる爪も鋭利で、獲物を簡単に引き裂くことができるだろう。短髪だった髪は肩を越した長さ――ちょうど二の腕辺り――まで伸びており、街頭に煌めいていた。おう、私より髪質がいいそうですわ。
「ぶっ潰そうか。邪魔だから」
愉しそうな声をともにした飛躍は、『亡霊』の頭頂部より遥か上まで達している。勢いを乗せたまま降下する栞坂くんの髪が靡く。『亡霊』の方も負けじと首――と言っていいのかなんなのか、ワンコの顔が栞坂くんに向かっている。あのワンコは柴犬だろうか。次々に襲う動物霊と幽霊を薙ぎ払ったあとは、『亡霊』を切り裂いた。一回。ただの一撃。しかし、されど一撃である。それだけで、『亡霊』は跡形もなく消えていく。圧勝と言わざるを得ないくらいにきれいに決まった。
「すごい……」
ことが終われば気だるげに佇む栞坂くんに感嘆を漏らせば、芒くんが「栞坂は〈鬼〉のなかでも力が強すぎるからね」と説明してくれる。だから、仲間うちであったとしても、腫れ物に触るような感じになるという。
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