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苦しいと思う反面、これは浮き上がるのは無理だという納得と絶望。自分で選んだ道だから仕方ない。苦しいけど、これを乗り越えれば――。
――シャン、と何かが鳴った。なんだろう――。
夢心地だった私は、不意に違和感に気づいた。水の中だと言うのに、その鈴のような音は、はっきりと聞こえたのだ。
――シャン。驚いて目を開けると、目の前に何かがいる――大型の生き物――イルカ? クジラ?
いやいや、そんなものではない。規則正しく整列した鱗は魚のようで、光沢のある肌が美しい。しかしとてつもなく大きい――クジラよりももっと大きく、長い。それはまるで――。
「……! みなみ!」
私はハッとして目を開いた。というか、今まで目を開いているつもりだったのに、いつの間に閉じていたんだ?
「南さん……よかった……!」
傍らには祖父とマネージャー。部屋の様子から察するに、ここは病院らしい。
「あなたが岸壁の下の岩に打ち上げられてるって連絡があってね……」
そう話し始めたマネージャーを見て、思い出した。
「瀬乃さんは!?」
そうだ、確か――海に落ちる前、瀬乃さんの声を聞いたんだ。思わず飛び起きた私を見て、マネージャーも祖父も医者も、固まった。妙な空気である。
「誰、瀬乃さんって?」
そう言ったのは、マネージャーだった。私の頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ。だって、そのセリフは、祖父が言うならまだしも――。
「瀬乃さんですよ! 前、あのコンビニでバイトしてて、今も客として来る……」
「そんな子、雇ったことないわよ」
――頭の中が真っ白になる。嘘だ。だって、瀬乃さんは――。
――あれ? 瀬乃さんって、私以外と話したことあったっけ?
そう思った瞬間、サッと血の気が引いた。嘘だ。嘘だ。だって――。
「瀬乃、か……まるで龍神様みたいな名前だなあ」
ふっと祖父が呟いた。
「え?」
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