離したくない

11/15
前へ
/15ページ
次へ
「じゃ、お先に」 俺と希映は立ち上がって、定食屋をあとにする。 「おまえさ、なんかあんの?」 「なにが?」 「いや、あんな風に否定すんの珍しくね?」 前々から俺と希映はああやって言われることが少なからずあった。 でも、あそこまで否定する希映は初めてだったから。 「いや……」 「え!?」 何かを話そうとした希映の瞳から涙が流れてきていて、俺は慌てて希映を定食屋と会社の間の路地に引っ張る。 「……ごめん」 「どうしたんだよ。急に」 「好きな人が、いるの……」 「うん」 そんなとこだろうとは思ったけど。 希映のこういう話を聞くのは初めてだった。 「飲んだ時にね、そういう関係にはなったの」 「あぁ……」 「でも、彼はずっと同期の子のことが好きなんだ」 ……同期? 「それ、塚田か?」 あの場にいた男は塚田だけだし。 たしかに塚田は茜が好きで、しかもさっきは何も発してなかった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加