第2章 戦い

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「陛下、これらが"太陽の雫"2000個になります。」 アイリスは王を見据え、一言も聞き漏らすまいと感覚を研ぎ澄ます。 王は口を開いた。他の面々が見守るなか厳かに告げる。 「大義であった、アイリス・ドガ・サン・ライト。そなたの働きを(たた)え、褒美を与えよう。望みを言うがよい。」 「大変名誉なことに存じます、陛下。ですが、私は陛下の臣下。誉められること以上の何も望みません。」 「ほう、その謙虚な心構え。サン・ライト王国民に相応しい。そなたは遠慮するが、それでは皆への示しがつかぬ。望みがないというならば、こちらが用意するが?」 「陛下の御厚意この身に余る光栄にございます。それでは、甘えさせていただきます。私は、彼を私の従者兼護衛として戴きたくおもいます。」 定型のやり取りを役者のように演じ、道化師のように真意を読ませない笑みを貼り付けて望みを口にする王女。 一方、王は人形のように全く変わらぬ表情で淡々と機械的に質問を繰り返した。 笑えるほどどうでもいい、茶番劇が終わると王女は自らの後方へと目を向け、小綺麗になった青年を紺碧の瞳に映す。 そして、再度王へと視線を移し、望みを言い放つ。 (しば)しの沈黙の後、王はやや放心状態の青年を一瞥(いちべつ)する。 それからほんの少し経って王が口を開いた。 この戦いは王女の優勢だ。 しかし、どれ程彼女が強く、有利でも王は絶対不可侵の領域。彼の決定ひとつで盤上の駒は全てひっくり返る。チェスのように王はとられたら負けでありながら、トランプのジョーカーように切り札となり得る。 時に邪魔となり、最強となり、味方となり、足枷となる。 元王子は死にたい。 王女は救いたい。 全ての決定は王に委ねられた。
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