第2章 戦い

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痛いほどの沈黙が続いた。 ナルカーリャの時とは違う静寂。 あのときは、静かさのなかに王の怒りが隠れていたが、今は怖いほどなにもない。 その時間は当事者である、王女と元王子には悠久のような時に感じたが、王にとっては瞬きほどの時間であった。 そして、沈黙のすえに王は答えを出した。 「いいだろう。第4王女よ、そなたにルナ・ムーンライト王国元第3王子カームデンブルク・ド・ルナ・ムーンライトの身柄を預けよう。」 「ありがたき幸せにございます、陛下。」 誰もが見惚れるような笑みで以てその結果を受け入れる王女。彼女の周りは花が幻視できるほど嬉しげな雰囲気で包まれている。 一方対照的に何時ぞやの"裏切られた"にぴったりな雰囲気を醸し出す元王子。 その瞳は深い絶望で縁取られ、紫水晶(アメジスト)の輝きは鈍く光っている。 王女は気付かない。後ろの気配を察知できるほど彼女は手練れではないし、敏感でもない。 王は気付いているのか、いないのかすぐに果たされた誓約を解除し、元王子の"従属の首輪"の主の更新をしようとしている。 トントン拍子で進められていく話は彼を置いてけぼりにしていく。 彼が我に返った時には既にその話は終わり、彼の家族達の処遇についてという新しい話が始まっていた。 彼には、新しく始まった話の結末などへの興味は皆無だった。 彼が興味があったのはただ一つ。 けれど、それが許される日が来るのは自らが自然(・・)に死ぬ日しかあり得ないと彼は痛いほど分かっている。 戦いは、王女の勝利で幕を閉じた。 彼女は初めて家族へと挑んだ勝負に勝ったのだ。 しかし、代償は大きく、彼女は近い将来それを返さなければならなくなるだろう。
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