第3章 生活

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【サン・ライト王国 "白薔薇の離宮"にて】 心臓はかつてないほどバクバクと大きな音を響かせ、呼吸はヒューヒューと風を切るような鋭い音を奏でる。 目の前には苦労して、救った彼がいる。 しかし、なんと声をかければよいのか、アイリスにはわからない。正確には、声は既にかけているのだが…… 玉座の間での出来事のすぐ後。 アイリス、侍女のララ、そして今は奴隷のカームデンブルクの3名はルナ・ムーンライト王国の王族の処遇の話し合いに参加した後、アイリスの離宮へと向かっていた。 そこがこれからのカームデンブルクの拠点であり、家となるからである。 何もアイリスはカームデンブルクをお飾りの従者兼護衛とするつもりはさらさらなかった。 自らが過去に己の力が足りず、悔いた経験から彼、カームデンブルクにも力をつけてもらいたいと願っているからである。 彼女は(カームデンブルクには内緒だが)彼を救うと誓いをたてている。それは、彼が敗戦国の王子であると知った今でも変わらずに在り続けている。          のだが……… (な、何を話せば良いの!?) 絶賛パニック中であった。 "白薔薇の離宮"へ到着し、彼を応接間に案内したは良いがアイリスは自分がこの後何をしたらよいのか全くわからなかった。 幸いと言うべきか、目の前の彼に呆れた様子はない。アイリスとしても主人としての威厳を開始早々無くすことだけは避けたかったのでそこは助かっている。 ……しかし、 (彼は何も思ってないかのようね) 彼の瞳は、恐いほど凪いでいる。 彼の纏う雰囲気は、怖いほど冷たい。 静寂が訪れるのを嫌うように、何もすることがわからなかったために、そして、不気味な予感がしたことからアイリスは彼へといくつかの質問をすることにした。 ーー貴方は喋れないのよね?はい か いいえ で答えられる質問をするから首を動かして答えてくれるかしら?ーー その質問から始まった彼らの会話はアイリスに"罪"を犯したと自覚させるには十分すぎるものだった。
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