第3章 生活

3/15
前へ
/66ページ
次へ
ーー改めて、自己紹介をしますね。私の名前はアイリス。この国の第4王女です。本日から貴方の主人となる者です。ーー 普通、王族は敗戦国の王子とはいえ、奴隷にここまで丁寧な自己紹介をしたりはしない。自ずと悟るものであるし、知っていくことであるからだ。 ーー貴方にはこれから、ここで生きていくための教育を受けてもらいます。よろしいですか?ーー アイリスの目の前のカームデンブルクは間髪いれずに頷いた。 勿論、縦にだ。 声が出せない彼にとってはこれが唯一の返答手段なのだ。 アイリスもそれを理解していて、はい か いいえ で答えられる質問をしている。 質問は続く。 ーーここにいるララが貴方の教師です。彼女には私に準ずる貴方への行使権を与えてあります。何かあったなら彼女を頼って下さい。ここまでは大丈夫ですか?ーー こくりと確かにカームデンブルクの頭は縦に振られた。 それを見てアイリスはホッと安堵の息をした。気づかれないようにそっと。 心配だったのだ。カームデンブルクは祖国を滅ぼされている。恨まれていてもおかしくはない。けれど、アイリスは彼を救いたいのだ。なれば、ただ身体を救うだけでは駄目だ。彼の心を、考え方をも救わねば。そうしなければ、救うことには決してなり得ない。身体だけなど、無意味なのだとアイリスは自らの名前よりも深く理解している。   だから…… 質問は続けられる。 ーーですが、もし。もし、貴方がここに、この国に居たくないと言うのならば、時間はかかりますが、必ず出してさしあげます。ーー 貴方の救いになるのなら、この国から出すことも厭わない。 そして、アイリスは続ける。 ーーこの質問へは、はい なら縦に、いいえ なら横に頭を振って答えて下さい。安心して、私は貴方がどんなを選択しても決して責めたりしないわ。だから、自らの望む選択をして。ーー 最後は、口調を崩してアイリスは言い終えた。 その方が彼に自身の気持ちが伝わるだろうと思ったのだ。しかし、アイリスは気付かない。気付けなかった。慣れないことをし、色々と容量限界(キャパオーバー)だった彼女は目の前の毒のように濁った紫の瞳が何の感情も映していないことに気付けなかった。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加