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【青年の闇】
そうだな……今の心情を例えるとしたら未知の生物に会ったというのがぴったりな表現かもしれない。
つい、先程までは"太陽"と呼んでいた女は俺には理解不能なことをいくつも口に出していた。
曰く、俺の意思を尊重するという
曰く、俺を従者兼護衛にするという
曰く、俺をこの国からだしてくれるという
正直、怒りを通り越して呆れを抱く。
俺は奴隷だ。人間ではない。それなのになんて扱いをしようというのか。恐らくだが、大事なモノを犠牲にして手に入れた権利が俺の権限全てなど笑える。
知ってはいるのだ。この人は優しい。気持ち悪いほどに。何故、そんなに優しくしようというのか。
俺には、そんな価値があるのか。
ああ、でも、そういう設定なのかもしれないな。何度かやられたことがある。
じゃあ、全て仕込みか。恐ろしいほど、手が込んでるな。そんなに俺が絶望する姿なんかみたいのか。
まぁ、いいさ、精々、演じよう。
絶望など、生ぬるい日々を過ごしたのだから。
こんなことなど、朝飯前だ。要はお姫様が俺に飽きるまで待てば良いのだろう?
そしたら、ようやく死ねるかもしれないし。
……思考が投げやりな気がする。期待してたんだろうか、彼女に。馬鹿だな、俺も。何を期待してんだか。裏切りなど日常茶飯事だったじゃないか。
現に、そういう発言をしてる。
2択の質問だってそうだ。
実際の選択肢なんて1つしかないじゃないか。
お姫様の従者兼護衛≪おもちゃ≫になるしか選べない。どうせ、この国から出すというのも嘘だろう。餌をぶら下げて、希望をもたせ、裏切る。
その時の人の顔は最高に愉快らしい。
嗚呼、心底良い趣味だと思う。
所詮、王族という生き物はどこの国でも一緒なんだな。俺もその一員か、最悪だ。
とにかく、答えよう。いつまでも待たせたら、余計にいたぶられかねない。もう、どうでもいいや。
前髪だって見せても良かったかもしれない。淑女とやらは特に、苦手らしいからすぐに飽きられたかもしれない。まぁ、機会があったら見せてしまおう。
フルフルと首を横に振る。
そんな餌に釣られるつもりはない。
精々、反応の薄い俺をいたぶり続けるといい。
そして、早く飽きて殺してくれ。
それだけだ、俺が望むのは。
彼女はパッと顔を明るくする。雲間から太陽が出てくる情景が刹那浮かび上がった。
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