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ササクは一歩、二歩、前ににじってから手紙をおしいただいて受け取る。ササクの後頭部にタマゴ王子の丸い影が落ちている。それを横目できっかり三秒見つめた後、タマゴ王子はこほんと咳払いをして両手を広げ、にこやかに、突然、幼馴染に戻った。
「……とまあ、かしこまってみたものの、本当のところを言うと困っているのだ、ササクよ。聞いてくれ。王子たるもの何でも経験と思い定め、美妖精イツクシと、ものは試しと付き合ってみたがまあ、あれは本当に妖精だ。ササクよ、機会があってもお前は決して試すでないぞ。本当に、えらいことだ。大変だ。ちょっとここでは口にはできぬ。おれの放蕩を多目に見てきた両親も、どうも見て見ぬふりはできぬらしい。年寄りの王族風情に、いったい誰が入れ知恵しているのやら。小さな王国とはいえ、きなくさいことよな。どう言い訳してみても懐柔しようと試みても、頑として、森の妖精とはこれっきりにしろの一点張り。今に始まったことではないのに、ついには放蕩王子のこのおれにも、ぴったり見張りをつける始末」
ふたりアッと気がついて、身を低くして、じっくりあたりの様子を伺う。植え込みの後ろに灰色の兵士の帽子が少しとんがっているが、タマゴ王子もササクも気づかない、ようにしている。水平に保たれたタマゴ王子とササクの両手。
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