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そこに突然、うしろー、うしろーと遠くで叫ぶ子供の声がする。タマゴ王子は静かに首を横に振り、聞こえないふりをする。ササクの表情は淡くて見えない。ささやかな笑いが客席で起こったが、子供の口は黒い手ですぐに塞がれる。
「だがそうは言っても、燃え上がる恋の炎は簡単に消えてはくれないのだ。小妖精たちは彼女のいいなりだし、森の動物も、天気までも思い通り、あれは美を司る、それはすなわち妖精の女王、森の主なのだ。すべての手管を使ってもはやもう、おれは人間には戻れない。これではいかんと、人間の娘たちにも目を向けてみたが、もう駄目だ、物足りない。いいや、下世話な話ではないぞ。それは言えぬと言ったろう。そうだ、愛だ。これは愛の大きさの話なのだよ。そういうことにしておくれ。黙っているのが辛いのだ。おれの恋の話を聞いてくれ、ササクよ。
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