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そこで、手に付いたチョークを払うようにポンと軽く手を叩くと、ようやく生徒達が雑談を止めて前を向くのだ。
そして、先生は言う。
「えー、ここに書いたようなぁ、内容の事をー、よくぅ、理解しておくように…」と。聞こえるか聞こえないか位の声量でだ。
その後、誇らしげな顔で生徒達を端から端まで一度見渡す。この行為は、自分が教師であることを自覚し、優秀な自分を注目する生徒達が自分を慕ってくれていることに幸せを感じているのである。
もっとも、実際はこの教師を慕っている生徒など一人も居ないのだが。
授業の終わる最後の十分間で丁寧に自分が書いた黒板一面の文字を書いた順番に1行ずつ丹念に消し始める。
消すときに自分で読んでいるのか、若しくは生徒達に一緒に黙読して欲しくてそういう行動を起こしているのかは、誰にも分からない。
消し終わると丁度チャイムが鳴る。熟練した技としか思えない。
これは毎回この調子なので、恐らく数十年間この男の授業スタイルはこれなのだろう。
これで授業料を取り、一人前の給料を貰っているということは大問題の筈なのだが、この教師に対して一切の苦情は一度も出た事がなかった。
彼の場合、授業中に敢えて生徒達に雑談をさせ続け、出来るだけ出来るだけ生徒達の反感を買わないように買わないように努力した結果、生徒達からは一言も苦情が出ないという巧みの業なのかもしれない。
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