焦らず、感じろ、海の声を

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見れば、ベッドの外、部屋中が水浸しになっている。 「!、アトラス!大変、大変だ起きろ」 「……ん、なにフィン、もう少し」 「バカ!部屋中が水浸しだ!水道管か何か破裂したのかもしれない、」 「水?……俺、水大好き」 「寝惚けてる場合かよ」 ふにゃり、と笑いながら腰に腕を回されそうになってジト目で避ける。全く状況を解ってないだろ、避けられて目を瞬きながらシュン、としたアトラスに溜め息。 「取り敢えず、大家さんに言ってくる」 「……俺もいく」 義足を取って付けてる間、アトラスが何でもないかのようにベッドから下りてバシャバシャタンスまで向かう。ここまで反応が無いとは……まあ、アトラスは元々文明人じゃないと言うか、もしかしたら慣れてるのかもしれない。 「着替え、手伝う」 「いいよ着替えぐらい」 「俺がしたい、やる」 「……好きにしろよ」 しっかり目を見て言われてしまう。了承を得た途端ニコニコしながら着替えさせられて、本当、甘やかすの好きだよなあ、と付き合う前も付き合った後も、アトラスは変わらない。 そのくせ、人の事は完璧にする癖に半裸のパンツのまま外に出ようとするアトラスに慌てて待ったをかけた。 間抜けというか、相変わらずというか。 「……結局何だったんだ」 「戻ろう、フィン」 大家さんに話をして業者を呼んで調べて貰った。結果、破裂もヒビすら何も無く、正常だという応え。それに大家さんから不審な目を向けられ、必死に弁解をして解って貰えたのか微妙な所だが、用は原因不明、という事。 「部屋中、水浸しなのに原因不明?……曰く付きとかじゃないよな…」 「今日中には帰ろう、フィン、ここからじゃ海が感じられない」 「……残念ながら今日中には無理だぞアトラス、ホットドッグでも食って落ち着け」 部屋が乾くまでアパートには戻れず、道の端で売っているホットドッグを買ってアトラスに手渡す。 じろじろと見てからでかい口開けて半分まで一気に頬張ったアトラスを見てから自分もかじりつく。 大通りから外れた変なオブジェが並ぶ一角に座り込んで、これからの事を考えた。 戻るならバイトを止めて、大家さんに言って、それだって今すぐには止められないし、代わりが見つかるまではバイトはしなきゃならない。今日中には完全に無理だ。
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