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どうしようかと空を見上げて、カモメを見つけて、こんな所に珍しいなと思った。
「フィンの波に乗る姿が、早く見たい」
「……無理だよ、戻っても、波には乗れない」
「乗れるよ……俺がいる」
「全く、随分な自信だな」
「皆も望んでる、海の中に居るフィンは何より美しい」
励ますのか口説きにきてるのか、どっちかにして欲しい。いきなりそんな事言うから、頬が熱く火照る。
「お前が波に乗った方が盛り上がるだろ、」
「フィンは俺が好きか」
「、っ好きじゃなかったら送り返してる」
あぁ、思い出すべきじゃなかった。今俺の頭の中は、潮の匂いと波の音、アトラスの泳ぐ姿が見える。海に戻りたい、なんて、もう戻らないつもりだったのに。ダメだな、って思う。多分、アトラスが迎えに来なくても、結局いつかは戻っていたのかもしれない。だって凄く、恋しい。
思って、隣のアトラスに顔を向けた瞬間、待ってましたとばかりにキスされて、波打つ金髪を揺らしながら男前が笑う。
「俺も、すごくフィンが好き」
「わ、解ったから」
一体お前は何回、俺に好きを言うつもりだよ。しかも人通りは少ないとは言え、こんな往来で。置いていた手を繋ぎながら取られて、指にもキスが降る。まるで深く繋がる前の愛撫をされているような錯覚に陥って、急いで腕を振って立ち上がった。
「あ、あーもう!やる事は沢山ある……、」
急に電話が鳴って話を中断させる。見ればバイト先からだ。何かあったのだろうか。シフト変更か、それとも人手不足とか。
『あ、フィン君?君、バイト辞めたいって聞いたんだけど本当?』
「え、は、い、引っ越しを考えてまして、でも誰から…」
『新しくバイトの子が何人か入るんだけど、その内の一人が言っていたからね、辞めたいなら大丈夫だよ、今すぐにでも手続き出来るけど来るかい?』
「ほ、本当ですか?はい、なら、行きます」
一通り話を終えて電話を切って呆然とする。こんなに早く話が纏まるなんて。
「どうした?フィン」
「いや、バイトが……今すぐ辞めても平気だって」
そうして、アトラスと共にアパートの近くの喫茶店へ行き、店長に会い、お礼を言って、また何時でも歓迎だよ、なんて言われながらハグして、手続きが終わる。何でこうも呆然とするのかって、だって昨日まで本当に人手不足だと嘆いて絶対に暫くは抜けられないだろうなと思っていたから。
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