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それで舌先をアトラスの口の隙間に滑らせて、彼の舌に触れてから、あぁやってしまった、と思った。
「ンッ、」
それまでゆっくりだった口付けが、性急に変わる。隙間なく塞がれて、横に滑らせて、角度を変えて。舌を絡められて吸われる。両手が首筋をしきりに撫でて、もどかしい。
ちゅ、ちゅうって、リップ音が鳴る。恥ずかしくなって首筋に添えられたアトラスの手の甲に触れる。唇を離して、俯いた。多分顔は真っ赤だ。
「はぁ、……、ァ、こら、あとらす、」
「んー……」
でかい犬みたいに首筋に鼻をすりすりしながら耳の下にキスをされて、これ以上は本当にまずい、と思って手の甲をつねる。ぺろり、と舐めてから顔を離して名残惜しそうに頬を撫でられてから向かいの席に座り直したアトラスに目線を向ければニコニコご機嫌な様子。
「、ちゅ、ってするだけじゃなかったのか」
「口と、首、ちゅ、ってした。本当はもっと沢山、沢山キスしたい…とても寂しかったから、フィンが居ないの、寂しかった」
あぁ、もう、なんなんだ。そんな顔して、むずむずするような恋とか愛とかそういうの。全面に押し出されたら、どうすればいいか解らない。
「わ、悪かったよ、逃げたのは、悪かった……」
「悪いこと、終わった、これからは沢山、良いこと……俺を信じて欲しい」
「……信じてるよ…」
何時だって、信じている。だからこそ苦しい事もある。きっとアトラスは俺がまた海に戻ると思っている。その思いに応える事が出来ない自分が歯痒くて、そうなると、アトラスは俺と居て本当に幸せだろうかと考えてしまう。
これからは良いこと、そうありたい。今はとにかく不安だらけで。
不意に手を取られて、優しく繋がれる。目の前のアトラスはニッコリと笑う。そんな男前な笑顔を見ていると、何だか全てがどうにかなるんじゃないかって気がしてくる。
「もう、一人で頑張るの、おしまい」
「……そうか、そうだな、うん」
列車はどんどん海に近付く。ふと潮の匂いを嗅いだ気がして、記憶が蘇る。瞼を瞑って耳をすませると、波の音が聞こえた気がした。
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