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見くだすように顎を上げたフォルカーに対し、リンケはふん、と鼻で応じ、
「御子息は元気かね?」
と片方の眉をさも興味深げに上げ下げしてみせた。
フォルカーには二人の息子がいる。1人は秋に士官学校に入ったばかりの17歳の準士官だ。
だがこの場合のリンケのいう御子息とは、薬物治療のためにクラウスゼー《Klaus See》という湖の湖畔の療養所にぶち込んであるほうの息子――長男ユリウスのことだ。
フォルカーは相手の挑発には乗るかという思いと、一言言わせてもらわねば気が済まないという思いの狭間に立ち、眼と鼻と口が完璧な黄金比を保った状態で形成されている顔を、顰めるか否かで迷った。
フォルカー・エーベルトとリンケはそれぞれ首都防衛局長であり、公安局長であり、党大会に向けては警備の面でお互い協力し合わねばならない役職だった。
しかし同年齢であるこの二人は犬猿の仲だった。
リンケは警察学校あがりの元官僚で、入党してからあの手この手を使って公安局長にのし上がった異色の経歴の男で、士官学校出の純粋培養エリート軍官であるフォルカーをなぜか公然とライバル視していた。
対するフォルカーは、当初気にも留めない振りをしていた(当然の反応である)。
が、リンケが異例の早さで出世しとうとう局長クラスに並んでくると、彼を意識せざるを得なくなってきた。それが腹立たしいのである。
さらに云えば、自分の反対を押し切ってこのリンケの部下――つまり公安局・対外諜報部の部員となった自分の長男ユリウスが、潜伏活動中のソ連で同・諜報部の同僚に裏切られ、薬漬けにされ、廃人寸前になって母国に送還されてきたとなれば、この期に及んでフォルカー・エーベルトが、リンケに愛想よく振る舞う理由ももはや絶無であった。
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