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「ねぇねぇ見て。このペンギンかわいい」
萌ちゃんは僕の腕をグイッと引っ張った。小型のペンギンが餌の魚をパクついていた。
今日は萌ちゃんと水族館に来ている。夏は受験の天王山と言われるが、毎日7時間近く勉強を頑張っているし、たまには丸1日息抜きするのもいいだろうと僕は思っている。
「大助先輩。そろそろイルカショーですよ」
萌ちゃんはペンギンを見終わるとさらにグイグイとイルカショーの行われる場所に僕を引っ張っていく。
あんなに控えめだったのに。付き合いだしたら変わるコもいるんだな……
僕は心底そう思った。でも、これも悪くない。
6頭のイルカが織りなすダイナミックな芸に酔いしれる僕たち。萌ちゃんは首を左に傾け、僕の右肩に顔を乗せた。僕はその顔を優しく撫でる。
色々なことがあった。今までで一番密度の濃かった夏が過ぎ去ろうとしている。でも、僕の青春は、そして僕が切り開いていく人生は、まだ始まったばかりだ。
1頭のイルカが再び豪快にプールに飛び込む。
水しぶきが上がる瞬間、僕はあの日、県大会行きを勝ち取った日の風景を思い出していた。
【完】
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