第4章 たったひとつ

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僕のいる水泳部の四月の部活は、新入生の勧誘とプール掃除でほとんど終わる。四月の間にプールの苔を全部落として、大型連休前くらいからはプールで練習を始めることになる。 いよいよ、いわゆる「プール開き」の日がやってきた。 「よし。今日はみんなの泳力をみたいので、泳ぎこみをする。クロールで1年生は50mを20本、1分10秒サークルで。2年生は50mを25本、1分サークルで。3年生は100mを15本、1分45秒サークルで」 高岡先生はメガホン片手にそう言う。僕は青くなった。1分45秒サークルで15本か… 1分45秒サークルとは、1本当たりに与えられた時間のインターバルを守って行う練習のことをいう。たとえば100mを1分20秒で帰ってきたら25秒休んでまたスタートする。1分35秒だと休みは10秒。1分45秒以上かかったら休みなしで次に入らないと行けない。これを15回繰り返すのだ。 ちなみに僕の100mのベストは、1年の最後の記録会で出した1分40秒だった。逆立ちしても無理だ。でも、やると決めたからにはやるしかない。 1本目。1分33秒で戻る。 あれ?1年の時より速くなっているな。思ったより休めるぞ。 2本目。1分35秒 3本目。1分37秒 4本目。1分37秒 1本目でかなり疲れたはずなのに、思ったよりタイムが遅くなっていない。すぐに脱落すると思ったのに、予想外だ。 決して余裕があるわけではない。むしろギリギリだ。でも、1分45秒でコンスタントに回れている。あれよあれよと12本までは泳ぎきってしまった。 ここで高岡先生の檄が飛んだ。 「おい野呂さん!残り3本はペースを上げてみろ!」 僕はペースを上げようと試みる。 13本目。1分38秒 14本目。1分35秒 「よしラスト1本だ!野呂さんはダッシュで行け!」 再び飛んだ檄に僕はただただ無言で頷く。 15本目。1分31秒 終わった。全部回りきった。しかも最後の1本は大会でも出したことのないベストタイム。 「よーしおつかれさん。全員心拍数を測れ」 高岡先生は全員に指示を出し、記録する。 「じゃあ残りのメニューは井上さんに任せるから、井上さんの指示に従って練習するように。そして野呂さんは一旦プールからあがれ」 僕は高岡先生の言われるままにプールから出た。
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