第4章 たったひとつ

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僕は高岡先生に言われるまま、プールサイドのベンチに腰をかけた。 「野呂さん、キミはどうしても県大会に行きたい、と言っていたな。その気持ちは今でも変わらないね?」 高岡先生は僕に念を押す。僕はしっかりと首を縦に振った。迷いはない。もうただののろすけでいるのは嫌だ。 「県大会に行くためなら、残り2ヶ月、何でもする覚悟はできているか?」 なんでもする、この平仮名6文字が耳に入ってきたとき、一瞬僕は躊躇した。でも僕は決めたんだ。もう後戻りはしたくない。 「はい」 意を決して僕は高岡先生に言った。 「そうか」 高岡先生はそう言うと、1枚の紙を見せてきた。 「これは去年の地区大会突破のボーダーラインだ」 僕は紙を眺める。僕の種目である自由形はどれも激戦だ。僕が2年連続で出場している100m自由形の去年のボーダーは1分2秒。僕のタイムでは逆立ちしたって無理だ。 「正直、ムリだと思っただろ」 「はい」 高岡先生の言葉に対し、僕は落胆して答えた。 「そうだな。無理だ。少なくとも100mではな」 「え?」 少なくとも、ということは希望があるのか?僕は訊き返した。 「そうだ。実はたった1つだけ、県大会の可能性がある種目がある」 高岡先生はそう言うと、目をキラキラさせながら僕の顔を直視した。
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