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僕は高岡先生に言われるまま、プールサイドのベンチに腰をかけた。
「野呂さん、キミはどうしても県大会に行きたい、と言っていたな。その気持ちは今でも変わらないね?」
高岡先生は僕に念を押す。僕はしっかりと首を縦に振った。迷いはない。もうただののろすけでいるのは嫌だ。
「県大会に行くためなら、残り2ヶ月、何でもする覚悟はできているか?」
なんでもする、この平仮名6文字が耳に入ってきたとき、一瞬僕は躊躇した。でも僕は決めたんだ。もう後戻りはしたくない。
「はい」
意を決して僕は高岡先生に言った。
「そうか」
高岡先生はそう言うと、1枚の紙を見せてきた。
「これは去年の地区大会突破のボーダーラインだ」
僕は紙を眺める。僕の種目である自由形はどれも激戦だ。僕が2年連続で出場している100m自由形の去年のボーダーは1分2秒。僕のタイムでは逆立ちしたって無理だ。
「正直、ムリだと思っただろ」
「はい」
高岡先生の言葉に対し、僕は落胆して答えた。
「そうだな。無理だ。少なくとも100mではな」
「え?」
少なくとも、ということは希望があるのか?僕は訊き返した。
「そうだ。実はたった1つだけ、県大会の可能性がある種目がある」
高岡先生はそう言うと、目をキラキラさせながら僕の顔を直視した。
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