第5章 断捨離

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1500m自由形、という想定外の回答に、僕はしばらく言葉を失った。 「意外な球が飛んできてどうしよう?って感じの顔だな。野呂さん」 そう言う高岡先生に僕はただただ頷く。 「みんなそう思うんだよ。ほとんどの人にとって、1500mはハナから出場種目の選択肢に入らない。長距離は辛いという固定観念もあるんだろう。だからこそ、狙い目なんだ。各種目どれも、地区大会から突破できるのは5人だ。ちなみに50m自由形のエントリーは去年は103人。1500mは何人だと思う?」 「……何人なんですか?」 「10人だ」 「!!」 今までの地区大会、僕は1500mなんて見てすらいなかった。だからここまで出場者が少ないなんて思ってもみなかったのだ。 「出場者の真ん中にまで入ればいい、そう思ったら気が楽だろ?」 「……でも、そもそもなんですけど、1500m、僕なんかに泳ぎ切れますか?」 「今の泳ぎを見ていた感じだと、十分いける」 高岡先生は太鼓判を押すが、僕には全く信じられない。 「それと、確か1500mには基準タイムがあったような……」 僕はそう高岡先生に言う。そう、400mと1500mは、基準タイムを上回らないとたとえ5位以内に入っても県大会への切符は手にできないのだ。この疑問にも高岡先生は自信を持って答えた。 「県大会の基準タイムは22分13秒だ。100mを1分28秒のペースで泳げればいい。今の15本の野呂さんの平均ラップは1分36秒だ。普通なら8秒縮めるのは至難のワザだ。でも野呂さんならできる」 「いやいや、かなり厳しいでしょう?」 僕は疑問の声を挙げた。高岡先生は右手の人差し指を立て、左右に振った。
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