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「野呂さん、今の君に一番必要なことって、何だと思う?」
高岡先生の質問に、僕は考え込んだ。
「ヒントは、漢字3文字だ」
高岡先生は笑顔できいてくる。
……
「……焼豚麺?」
「んなわけあるかいな!断捨離だよ。聞いたことないか?」
断捨離。確かに聞いたことはある言葉だ。でもこれって家の片付けに使う言葉じゃなかったっけ?
「断捨離とはいっても、野呂さんに今一番必要なのは、こころと頭の断捨離だよ」
「こころと頭の断舎離?」
僕が訊き返すと、高岡先生は短く頷いた。
「頭とこころにある必要のないものを手放していく作業だ。僕にはできないという固定観念と自己評価の低さ、失敗したところを死んでも見られたくない、笑われたくないという高すぎるプライド、失敗したあとのことを考える先取り不安、ほら、ほかにもないか?」
高岡先生は僕をじっと見つめている。
「……コンプレックス」
僕はぼそりとつぶやく。
「何に対してだ?」
「……蛯原君と、そして…………後藤君」
僕は念のため周りを確認してから答えた。蛯原も後藤も、今日はスイミングクラブの練習に行っており、部活には来ていない。
「あいつらがこの学校のスター級の奴らだからか?」
「…………はい」
僕は悩んだ挙句、返事だけをした。麗奈ちゃんのことは伏せておいた。
「もしかして、もし仮に野呂さんが種目変更したら、蛯原さんや後藤さんがバカにするんじゃないかって思っているか?たとえば、どうせ無理だとか、あるいは競争率が低い方に流れた根性なしって見られるんじゃないか、とか」
「はい」
高岡先生の指摘は完全に的を射ていた。
「ええとな、世の中には、一生懸命歯を食いしばっている人をバカにする人は、いるんだ。実際。そして、批判や非難をする人も、いるのが普通だ」
あいつらはそんなことしない、という気休めのメッセージを予想していた僕は、不意を突かれた。
「でもな、そんなさみしい人に自分の人生が、自分のやりたいことが、自分の目標が台無しにされるのって、すごくもったいないと思わないか?」
僕は高岡先生の言葉にただただ頷く。
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