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「そうだよな。もったいないよな。だとしたら、目標を立てて行動し、努力するのを邪魔するそんなコンプレックスは必要か?不要か?」
「……いりません」
高岡先生の誘導に僕はすんなりと乗っかることができた。
「だとしたら、やることはひとつだな」
「はい」
僕は胸を張ってそう言った。
「野呂さんが、野呂さん自身を認めてほめてあげればいいんだ。ベストを尽くして頑張ったこと、タイムがコンマ05秒縮んだこと、なんでもいい。野呂さんの人生は誰のものでもない。野呂さん自身のものだ」
僕は黙って頷く。
「いいか?残された時間は2ヶ月。自分で自分を最高にほめられるような全身全霊のパフォーマンスをやってみろ。野呂さんは今日から、2ヶ月という短期間を全力で駆け抜けるスプリンターだ。種目は長距離だけどな」
高岡先生はにこやかにそう言って僕の頭を優しく撫でた。僕は高岡先生に一礼をしてからビート板を持ってプールに入り、皆と一緒にキックの練習を始めた。
時計は午後5時を指している。日がだんだん長くなって来ているのを感じた。
なるほど、長距離スプリンターか……
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