第1章 僕は運動ができない

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体育の授業が嫌いだ。 突き刺さる冷ややかな視線、取れないボール、ゲーム中のダメ出し、女子からのひそひそ笑い。きっとすべて僕に向けられている。 僕は野呂大助。中学3年生だ。はっきり言おう。モテない。いやこれはホントに。僕はとにかく運動がダメすぎて、モテないのだ。 「おいのろすけ!なに敵にパスしてるんだよ!」 はぁ……今日もバスケットボールの授業でボロカスに言われてしまった。 僕は中学3年生のくせに、50m走のベストタイムは9秒3。あまりにも足が遅く、いつの頃からかのろすけというあだ名になってしまった。しかもそのあだ名は学校中に浸透してしまい、先生方の間でも陰ではのろすけのあだ名が通っているんだとか。 陸上だけではない。球技も体操もダメだった。バスケでは生まれてこの方試合中にシュートを決めたことがない。逆上がりは結局できないまま小学校を卒業した。あ、そうそう。跳び箱に突撃して大量の鼻血を出して倒れたことがあったっけ。 …ふぅ、思い出したら悲しくなる。とにかく、僕は筋金入りの運動オンチなのだ。 そんな生まれながらの運動オンチの僕にとって、この中学校はまさに鬼門だった。なんとこの中学校、文化系の部活が全くないのである。文芸部も囲碁将棋部も、ブラック部活と言われることもある吹奏楽部や合唱部すらない。しかも部活動参加は必須。この事実を知ったとき、僕は本気で転校したくなった。しかし公立でそんなことは無理だ。僕は部活動選びに悩みに悩んだ。 そんな中で僕が入ったのは、水泳部だった。水泳部なら、仮に遅くてもヘタクソでも他人に迷惑はかけなくて済む。笑われるとしても、被害は最小限だ。しかも冬場の練習はほとんど無いに等しい。強いメンバーは皆スイミングクラブの選手コースに行くからだ。小学校のときなんとか100mは泳げたので、僕は水泳部の門を叩いた。 最初の1年はそこそこ頑張ったとは思う。入ったときはクロールで100m泳げてせいぜいだったところ、なんとか200mは泳げるようになった。泳げなかった平泳ぎと背泳ぎもなんとかできるようになった。でも僕はそこまでだった。
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