第2章 眠れないのはキミのせい

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2月14日が近づくと、クラスの男子勢はみなそわそわし始める。中学2年生といったらやはりお年頃。チョコレートは貰えるのか、貰えるとしたら誰からか、皆口には出さないが気にしているのが分かる。 かくいう僕も、天文学的に低い確率で起こるかもしれない奇跡に淡い期待を寄せていた。 「おいのろすけ、おまえチョコ貰ったか?」 2月14日の昼休み、同じ部活の同期である後藤と蛯原から廊下で絡まれた。 僕はこの後藤と蛯原が苦手だ。後藤と蛯原は水泳部のツートップ。後藤は背泳ぎ、蛯原はバタフライを得意種目としている。前回は惜しくもブロック大会で敗れたが、2人とも今年は全国大会が期待されている。隣にいるだけでみじめな気持ちにさせられるこの2人には隣にいてほしくない。 「無いと思うよ」 僕はそっけなく答える 「いや、あるかもしれないぞ」 後藤がしつこく絡む。正直、うざい。 「いいでしょ?別に」 困った顔で僕が言うと、 「もしたしたら机の中とかにあるかもな。井上あたりから」 蛯原の言葉を受けて一瞬だけ僕の全身の動きが止まったのを感じた。 「やっぱり興味あるんじゃねぇか」 後藤がさらにしつこく言う。 「もういいだろ」 僕は逃げるように2人から離れ、教室に戻った。 僕は机の中から数学のノートと教科書をおもむろに出そうとする。 ガサッ 何が違和感のある音がした。 机の中を確認する。 あった…… どうも僕は、生まれて初めてバレンタインチョコというものを貰ったらしい。 包装紙にハート型の紙が貼られているのが見える。 周囲の目を確認しながら机の中をおそるおそる見てみる。 「のろすけ君へ 井上麗奈」 僕は紙にそう書かれているのを確認した。 この日、このできごとからずっと頭が働かない。いつもならしっかり聴いている高岡先生の数学の授業が珍しく全く耳に入って来なかった。 今夜は、眠れそうにない。
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