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「どうした?ケイヤ?朝から大分お疲れみたいだけど」
端正な顔だちをした男だった。
俺の前席に腰かけ、体をこちらに向けている。
顎を椅子の背にのせ、手首をこちら側にだらんと垂らす。
髪色はオレンジ。
しゅっとしまった顔には、不思議とその色が似合って見えた。
音楽でも聞いているのか頭にはへッドホンをつけている。
「ケイヤ?」
「いや、ええと……なんでもないよ」
「なんでもないってことはないだろ。さっきも葵の話無視してたしさ」
「葵?」
「おいおい。ホントに大丈夫か?」
名前を聞きかしたがために余計に疑惑を招いてしまったようだ。
俺は慌てて首を振って
「いや、大丈夫。大丈夫。葵ね。うん。葵。」
「…………まあ、それならいいけど」
釈然としない表情ながらも一応うなずく彼。
この文脈から察するに、葵というのは先ほどの巨乳のことだろう。
俺は適当に話を合わせ、丁度チャイムが鳴った瞬間に
「ほら、もうHR始まるしさ」
「えっ……あ、ああ」
なんとか話を切り上げた。
よし、これでひとまず誰にも話しかけられず考える時間が取れるな。
そう思っていた矢先、教室前方のドアを開いて入ってきたその女性を見て、俺は飛び上がりそうになった。
赤髪。
ちょこちょこ歩くその小さな歩幅。
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